大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)364号 判決 1965年11月05日

上告人

片山松太郎

右訴訟代理人

高橋陽子

被上告人

門脇蘭雄

被上告人

森岡マチエ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋陽子の上告理由第一点について。

民法五〇九条は、文理解釈上、不法行為の被害者換言すれば、不法行為によつて生じた債権を有する者が現実の弁済によつて損害の填補を受ける利益を保護しようとする趣旨であつて、その者がこの利益を放棄することを妨げるものではないと解すべきであり、この趣旨に照らせば、同条は、不法行為以外の原因により生じた債務を負担する者が不法行為による損害賠償債権を自働債権として相殺することを禁じていないものと解するのが相当である。したがつて、右と同趣旨の見解に立つ原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でなく、所論は、ひつきよう、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。

同第二点について。<省略>(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人高橋陽子の上告理由

第一点 原判決は判例に違反し、結局法令違反をなしおり、到底破棄を免れないものと信ずる。

一、原判決は、被上告人森岡マチエの慰藉料請求権を以つて、上告人の本件貸金請求権の相殺を認めた第一審判決を認容し、上告人の請求を棄却した。

二、然し乍ら、判例(大審院昭和三年一〇月一三日言渡民集七巻七八〇頁)は相殺にあてるべき自働債権も亦不法行為によりて生じたる場合、相殺を許されぬ旨判示している。

三、原判決の認容した第一審判決は、被上告人森岡の自働債権につき「不法行為に対する慰藉料請求債権」と明確に判示しており、前引用の判例に違反すること、極めて明らかである。よつて原判決は民法第五〇九条の解釈適用に違反し破棄さるべきものである。

第二点 <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例